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 ちちち……ちゅんちゅん………… 「……ん…………」  遠くから聞こえてくる鳥の鳴き声に、紗代の意識はゆっくりと浮上してきた。 「…気がついた、か……?」  傍から控え目に声が掛けられた。 「……ぅ………、ん……」  そっと重い瞼を開けると、そこには見たことのない男性が心配そうに顔を覗き込んでいた。 「……良かった…!! 目覚めないから心配していたんだ」  安堵したように微笑んで彼は紗代の額から手ぬぐいをとって桶の中へ浸した。 「………ぁ……」 「……ん…?」  手ぬぐいを再び絞りなおしていると、彼女が何か言いたそうに口を動かした。 「…あ、りが………と…ござ……いま、す……」  声が掠れてうまく声が出なかったけれど、彼は小さく目を細めて口元を緩めた。 (伝わってくれた、のかな。だったら嬉しいな) 「……わざわざ礼など必要ない。巻き込んでしまったのは此方のせいだ。本来ならば此方が謝罪しなければならない立場だ」  そうして手ぬぐいを紗代の額に乗せ直すと、彼は深々と頭を下げた。 「……申し訳なかった。勝手にここまで連れてきた挙句、こんな……辛い状況下に置いてしまって」 (――そんな…!! 別にそんな、謝らなくても……! 全然気にしてないのに…!!)  声が出ないことがひどくもどかしい。ぶんぶんと手を振って身体を起こそうとするが、うまくいかずそのまま前のめりに倒れた。 「…っと。危ない。……大丈夫か…? まだしばらくは安静にしていないと駄目だ」  間一髪のところで彼が支えてくれたおかげで、床に頭をぶつけることはなかった。目の前一杯に布団の白が広がっていた。 「……わ、たし…………」 「…ん…? なんだ…? 声もうまく出ないだろう。今、水を持ってくるから少し待っていろ」  紗代を布団に寝かしつけながら言うと、彼女はゆっくりと必死な様子で言葉を紡いだ。 「…お、こって……なん、か……いま、せん………よ……?」 「…………………あぁ、そうか。ありがとう」  一瞬驚いたものの、それが今の彼女の状況に至らしめてしまった自分たちに対することだと悟り、一つ笑みを零すと彼は立ち上がった。 「すぐに戻ってくる。大人しく待っていてくれ」  彼の背は、そうして障子戸の向こうへと消えていった。
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