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その数時間前。
「……今日からここが紗代の部屋ね。こっちがお風呂場に洗面台…。……あぁ、もう、こっちは忙しいってのに…。あとは勝手に見て回って頂戴」
「……はい。ありがとうございます」
冷たい目の叔母さんの背が台所に消えていくのを見届けると、私は自分の部屋となった部屋に足を踏み入れベッドの上にそのまま倒れた。
――三日前。
私の両親は亡くなった。原因はスリップでの事故死。当時、路面は雪のため滑りやすくなっていたという。
そうして引き取り手のない私、篠咲 紗代は父方の叔母の元に引き取られた。
叔母とはほとんどロクに口をきいたことがない。機会がなかったのと、私が口下手なのが原因であった。
(……お父さん、お母さん……。どうせなら私も一緒に連れて行ってほしかったよ……)
眦から零れるのをそのままにシーツを両手で握りしめる。
――高校二年生とはいえ元来の口下手が悪功を奏し、クラスでも一人浮いた存在。
――寂しかった。誰も分かってくれなくて。伝えようとしても大抵は最後まで聞いてくれなくて。
(私……。どうしてここに居るんだろう)
泣き疲れてボーっと天井を見上げる。その瞳にはもう、何も映っていなかった。あるのはただ、絶望だけ。
(唯一、私の事を分かってくれる両親はもう居ない)
自身を認めてくれる人たちだけを支えになんとか今日まで生きてきた紗代の心はもう限界だった。
腕で閉じた目を覆った。
(今までは。駄目だと分かってても明日はきっと、って信じて頑張ってこれた。だけど――)
自分を認めてくれる人の居ない、果ての見えない闇の中。
(私…どうしたら)
頑張りたい。だけど何もやる気が起きない。
(……嫌。情けない自分も、分かってくれない人も、この世界も…!!)
――どうせなら私なんて消えてしまえばいい。私の存在なんて、ここには必要ない。
耳を塞いで足を抱えるようにして丸くなった。
――そこで紗代の意識は、何かに引き寄せられるようにフツリと途切れることになる。
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