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山南さんに窘められて土方さんの眉間に皺が寄った。
「……。……別に山南さんの腕を信用してないって訳じゃねえんだがな……」
尚も渋い表情で考え込んだ土方さんに、山南さんは袂から何かを取り出して私の目の前に置いた。
それは、懐紙に包まれた粉だった。
「……山南さん、それは…?」
「巫女にしか効かないという薬です。今まで数多の人々に飲んでいただきましたが、誰しも何も変わりありませんでした」
土方さんの隣に座る人は、その言葉に険しい顔になった。
「……ちなみに。巫女であれば…?」
「巫女であればその日から七日間、酷い体調不良に襲われるそうです」
さらりと紡がれた言葉に、その場の空気が一気に剣呑なものとなった。
「山南さん……!! もしそれで何かあったらどうしてたってんだ……!」
土方さんが強い口調になる。
「あったとしても、七日だけです。それに、この薬は代々巫女捜しに役立ってきた代物ですよ」
「…………山南さん、あんた正気か」
「正気も何も、これは幕府のためです。多少の犠牲は止むをえません。……まぁ、とはいえ死ぬわけではないので“犠牲"とは言えませんがね」
ニッコリ微笑んだ山南さんの胸倉を、痺れを切らした土方さんが掴みあげた。
「俺たちは幕府の犬じゃねぇ。民を守る俺たちが、率先して民を傷つけるなんてあって良いはずがねぇだろ」
「……土方くん。しかし何事にも我慢は必要なのですよ」
自身を睨み上げる土方に山南は溜息を零した。
「我慢、だと? 守るはずの奴らを犠牲にしてまで何に耐えろ、ってんだよ……!! 人道外れも甚だしいんだよ!」
ガン、と鈍い音とともに山南さんの身体が襖戸に当たって地に落ちた。
「……俺は反対だ」
山南さんを一睨みして土方は部屋を出て行こうとした。
「では。どうやって確かめるのです? この娘が巫女であるか否か……」
山南の追及の言葉に、背を向けたまま土方は押し黙った。
「巫女でなければ早急に処分を決めなくてはなりません。今ならまだ…殺さずに済みます。勝手に連れてきたのはこちらですし、彼女もまだ屯所内を見てはいませんから」
「――確かに、山南くんの言い分にも一理ある、か…」
土方さんの隣だった人も腕をくんで唸った。
「……では」
静かになった室内に響いた声に、土方さん以外の全員の視線が集まる。
声の主は、先ほど紗代の居た部屋に来た、黒髪を緩く一つに束ねて前に垂らした男性だった。
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