Prologue...

6/6
前へ
/18ページ
次へ
リビングには、既に家族が全員揃っていた。 食事の際にはみんなで集まって食べるのが、この家のルールだ。 新聞のスポーツ欄を眺める父、忙しそうに食べ物がのった皿を運ぶ母、最近買ってもらった最新の携帯をいじり続ける中学生の妹。 それぞれやっていることはバラバラだが、見慣れた光景は、不思議な安心感を与えてくれる。 「あ、お兄ちゃん。そこのバター取って」 「はいはい、…ほらよっと」 「おい、久遠。パンが焦げているぞ」 「あら… 醤油がなくなりそうだわ。今度買ってこないと…」 賑やかな会話と共に、いつもと変わらない朝食の時間が過ぎる。 「…ごちそうさまでした」 いつもと同じように数分で食べ終わり、食器を流し台まで運ぶ。 だが、いつもと同じように自分の部屋へ向かうはずの両足は、まるで縫いつけられたかのようにその場から離れようとしなかった。 原因は視線の先にある新聞。父が読み終わり、畳んで机の上に置いた新聞の一面には、今朝話題になったことが、大げさに掲載されていたからだ。 『政府、軍備増強を本格化』 国の権力者達が写っている写真の上には、平和な日常の終わりを告げる文字が踊っていた。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加