ー序章ー

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   埃っぽい土の臭いが鼻孔をくすぐった。やけに鼻につく。 次に感じたのは全身を揺さぶるような地響きと、走り去るいくつもの足音。 思わず目を開けてみると視界いっぱいに映るのは赤黒い土、顔を上げれば辺りにはそれよりも赤みを帯びた大きな影が揺れていた。 「樹が、私たちの樹が!」 誰かが叫んだ。 呼応するようにいくつもの悲鳴が重なり、それは次第に獣の咆哮のように荒々しくなっていく。 辺り一面を囲む赤い影は人々を飲み込んでは大きくなり、木々を燃やし、大地さえも黒く焦がしていく。 一つ、また一つと声が消え、どこかで獣が鳴き始めた――。 『北の森に訪れた悲劇を二度と繰り返してはならない』 人々は母体樹から、生まれてから死ぬまで加護を受け、寄り添うように生きていく。 だから、母体樹を自ら切り倒した愚かな北の森は滅んでしまった。 それはオレが小さい頃から、ずっと父さんに聞かされてきたことだ。 『北の森に訪れた悲劇を二度と繰り返してはならない』 それがこの世界の掟。
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