紅き獣が欲したモノ

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 思わず確かめるように目を開ける。  浮かび上がったのは、紅。  オニキスのようだった虹彩は、ルビーへと姿を変えていた。  嫌いな色にも関わらず、魅了される。  優しげな笑みも、嗜虐的な微笑へ。  託徒の左手が、千草の上着のポケットから入っていたものを探り出した。  二つに減った飴玉の小瓶。  託徒の細い指が掴み、ゆっくりとそれを振ると細い鎖が涼やかな音を立てる。  それが、千草の中で大きく響く。 「飴だけで堕ちれば、辛い思いをしないで済んだのにな」  いつもよりの低めの声が千草の耳元で囁かれる。  小瓶が託徒の制服のポケットに納められ、そのまま 左手は千草のワイシャツのボタンへと伸びてくる。  ゆっくりとボタンを外され、千草の華奢な鎖骨と胸元が露わになる。  抵抗したいのに、出来ない。  託徒の雰囲気に飲まれた千草は、自分の意志で身体を動かすことが難しくなっている。  そこに更に右手が腰に回され、左手が頭部に掛かり身動きすら封じられた。  そのまま託徒の顔が千草に近づいてくる。  首に熱を感じた。 「……っ!」  熱い吐息と舌が喉元を、頸動脈を這う。  ぴたりとその動きが止まったのは、息づく脈の上。 「……俺の餌(え)になれ、千草」  小さな呟きが熱をはらみ、共に二つの鋭いものを覗かせる。     細められた紅が、笑う。  瞬間、更なる熱が弾けた。  声にならない悲鳴が喉から漏れる。  託徒の白い牙によって穿たれた穴は二つ。  そこから零れる千草の命を、ゆっくりと託徒の唇が啜っていく。  紅が零れ、千草の白いシャツを鮮やかに染めていく。  少しづづ託徒へと流れる千草の血が、脈動する。  血に飢えた、ヴァンパイア。  続く水音の中、千草はそんな言葉が頭に浮かぶ。  まさに今の託徒は、人の生き血を啜る吸血鬼だ。  それをどこかで、受け入れている自分がいた。  託徒に感じていた違和感の正体。  彼に似合うのは日の当たる場所ではない。  夜色 の闇だ。  思うままに千草の血を貪った託徒が、ゆっくりと穿たれた牙を抜く。その傷口に溢れる紅を流れてしまう前に舌で掬い取った。  千草はやっと終わった行為に、詰めていた息をゆっくりと息を吐きだす。
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