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託徒はそのまま自分の人差し指の先に牙をたてた。
傷のついた指先からは千草と同じ紅い血が膨らんでいく。
その膨らみをそのまま千草の傷へと押し当てる。
「狂うなよ」
千草の血が足りなくなり、朦朧とした意識がその言葉の意味を理解する前に。
どくん、と心臓が大きく音を立てた。
「……っ!!!」
悲鳴を殺せず、絶叫する。
痛い、苦しい、熱い……。
想像を絶する痛みが、熱が、千草を襲う。
託徒が暴れる千草を掻き抱くようにして押さえ込む。
永遠の苦しみのように感じた頃に、唐突に痛みは引き、熱だけが残った。
「……っ、はあ……っ」
熱い吐息を吐き出し、身体に入っていた力が全て抜け落ちる。
千草は押さえ込まれたままの体勢で、託徒にもたれ掛かる。
意識の殆どを熱と霧が支配している。
「……消えなかった、な」
冷たい感触が頬を愛しげに撫でることを感じた。
それがとても心地よくて、すり寄ってみたかったが、身体がいうことを聞かない。
「別れを告げておけ」
霧に包まれていく意識の中で、テノールが直接響いてくる。
別れということは……このまま死ぬのだろうか。
「この世界に」
彼の最後の言葉は、身体の奥深くに染み込んで、意識を完全に奪っていった。
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