紅き獣が欲したモノ

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 氷上託徒(ひかみたくと)。  彼は二年生どころか、学校中の人気を集めている人物だ。  綺麗な人。  人の美醜に興味のないはずの千草が感じた、託徒の第一印象だ。  良くいる校内アイドルのような、爽やかできらきらしい笑みを浮かべるような人ではない。女子達に、クールでかっこいい、と言わしめる一因はそこなのだろう。  そんな託徒とは二年生でクラスメイトとなったのだが、何故かよく千草に話しかけて来た。  おかげで彼のファンクラブに体育館裏に呼び出し、という下手な展開まで味わってしまっているのだった。次は体育倉庫にでも呼び出されるのだろうか。  風に揺らされる長めの髪を押さえながら、託徒が千草に向かって微笑んだ。  託徒の笑みに、今度は千草が溜息を漏らす。  いつまでここに居座るつもりなのだろうか。 「氷上ー?」  唐突に、扉が開き少年の声が入って来た。  クラスメイトである彼は並んで座る二人の姿を見て、驚いたような顔をした。二人が一緒にいるとは思わなかったのだろう。 「サッカーやってんだけどさ、2ー0で負けそうで…。助っ人を頼みに来たんだけど…」  彼はそこで言葉を止め、千草に視線をやる。 「お邪魔だった?」  千草は思わず顔をしかめた。そんなふうに見られるなど侵害だ。 「だった。せっかくの逢い引きを邪魔するな」  しかし、託徒は淡々とした声で、それを肯定してしまう。  クラスメイトの彼は、目を見開く。 「マジでか?」 「いいえ、嘘です」  薄く笑みを浮かべている託徒が、これ以上の爆弾を投下する前に彼の代わりに答えた。 「寧ろいなくなるなら好都合です。どうぞ、何処へなりと引っ張って行ってください」 「酷い言われようだな」 「どこがです。先ほどから再三言っているでしょう。さっさと私の目の前から消えてください」 「……仕方ない」  託徒はやっとその重い腰を上げた。 「またな、早坂」  振り返って手を振ってくる彼を無視して、視線を本へと戻した。  託徒は呆然としているクラスメイトを引っ張り、扉の中に消えていった。
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