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「……はあ……」
一人になった広い空間に、千草の溜息が霧散する。
やっと静かな空間が取り戻された。
その空間に溶け込むように、目を瞑り吹き抜ける風を感じる。
風の音、木々のざわめき、道路を走る車のエンジン、空けられた窓から聞こえる生徒達の声、校庭に出たの生徒達の声。
ゆっくりと感じ、心が落ち着くのを待った。
しかし、校庭の生徒達の声が急に色めき立った。
少年達の歓声と、絶望の声。
少女達の黄色い悲鳴。
せっかくの雰囲気を壊されて、気分も台無し。
千草はフェンスの隙間から校庭を覗き見る。
また、あの男だ。
彼はとことん千草の邪魔をしてくれる。
託徒が二人の少年と共に、校舎から出て来た。
託徒がコートの中に入り、一人と手を打ち鳴らし交代する。
校舎からは続々と少女達が出て来る。
託徒が参加することを知り、近くで見ようとしているらしい。
すぐにゲームが始まった。
白と黒のボールが人の足によって、行ったり来たりと忙しなく動かされている。
少女達は口々に応援の言葉を紡ぎながら、熱心に見つめていた。
「氷上ー!パース!!」
彼の上げたボールは、託徒の元へ飛んで行く。
高く上げられたボールを胸で受け、自分の足下へと降ろした。
また、少女達のあの姦しい悲鳴が上がった。
「……うるさい」
そう思っているのに、目が離せなかった。
味方からのパスを受け、すぐに走り出した託徒。
正確なドリブルによって敵に隙を与えず、あっという間にゴールの前に走り込み、シュート。
的確な蹴りを受けたボールは、ゴールキーパーを通り越す。
いっそう大きな歓声が少女達と同チームの少年達上がり、功労者の元へと駆け寄って行く。
当の本人はといえば、小さく笑顔を浮かべ周りにされるがままになっている。
相変わらず彼は人気だ。
託徒は容姿も良ければ、頭もいい。そして運動神経も抜群。
少女達が魅了されるのも無理はない。
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