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「飴」
その言葉に更に心臓がうるさくなる。
何とか託徒の瞳を見る。
「前にやった飴は、どうした?」
「まだ、持っています」
千草の制服のポケットの中で、貰った小瓶の鎖が鳴った気がした。
「急になんですか?さっきはそんな話…」
「食わないのか?」
会話を自分のペースに持ち込もうとしたが、託徒に遮られる。
「……まだ、です」
仕方なく、ゆっくりと質問に答える。
その言葉に託徒の瞳が一瞬揺らぎ、細められる。
貰っておいて失礼だとは思う。しかし、千草はあの飴を口に含む気にはなれないのだ。
三日前託徒に、やる、と言われ渡されたのは丸みを帯びた小瓶だった。
透明な瓶の中には、三つの紅い飴玉が入っていた。
入り口から一列に並んだ飴玉は、鎖飾りのついた蓋を開ければ一つづつ出てくるのだろう。
千草は特に甘いものは嫌いではない。問題なのはー
紅
千草は紅、という色が苦手だった。
それこそ紅い色が見えた瞬間に冷や汗をかき、目を反らしてしまう程に。
その千草に紅い色を口に含めというのは拷問に等しい。
渡された時も、飴玉の紅に、蓋に付属した鎖の紅い滴型の飾りに、手が震えた。
託徒はそんな千草の手にそれを握らせて立ち去ってしまったのだ。
すぐに捨ててしまって、彼には美味しかったと嘘をついておけばいいだけのことだ。
なのにその飴玉の入った小瓶を捨てる事は出来ず、さらには制服のポケットに納めてしまった。
「今、何処にあるんだ?」
今日は質問をされてばかりだ。
「……制服のポケットの中ですが」
「貸してくれ」
そう言って託徒は右手を差し出してきた。
千草に食べる気がないことを悟られたのだろうか。それで返してほしくなったのか。
綺麗な瓶に入っていて、ただの飴には見えなかった。他の女の子達に渡すのか。
ゆっくりとした動作で上着の左ポケットに手を入れ、小瓶を握った。
中の色が見えないように手の平の中に納め、すぐ前にある託徒の右手の上に乗せた。
託徒の手の平の上で色が露わになる。
見えたそれから、すぐさま目を反らす。
目眩に似たものを感じ、千草が俯くと託徒が視界から消えた。
落ち着きを取り戻そうと、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。
降り注ぐ太陽の光がじりじりと千草を照りつける。
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