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「大勢で来て、このざまかよ。……なっさけねぇ」
ゆるやかに首を振り、ふと空を見上げるとビルの隙間から見えたのは満月。
「今日はこのくらいにしといてやるよ。――売られた喧嘩は買ってやるから、また来やがれ」
強い風が吹き抜ける。喧嘩の疲れも感じさせない程軽く歩いていく彼女の後ろ姿をじっと見据え、男の1人は強く拳を握る。
血液が落ち、地面に黒い染みを作った。
「くそ、くそぉぉっ、覚えていやがれ!!」
しかし、そんな叫びは夜の風に呑み込まれて消え、彼女に届くことはなかった。
――満月が、彼らを照らす。
それと同じ色を宿した金の瞳が、ビルの上から彼らを見ていた。
去っていく彼女を、まっすぐに見据えていた。
やがて彼は一つ吠えると、じわり、影を揺らして姿を消した。
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