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「うーん、何でこうなるんだ。教授ちょっと来て下さい」
その声に小暮は起こされた。テントで昼寝していた彼は顔に乗せた本をずらすと、隣のテントにいる佐原を見る。
ちょっと長身で痩せ形の彼は、いわゆる美男子という部類の人間だった。真っ白なシャツとカーキーのパンツがサバンナに栄える『絵になる男』は、どうにも小暮にとって近づきがたい。無駄な脂肪を抱えた小肥りで、金もなく、27歳でオジサン呼ばわりされる自分………仕事でなければ自分から話しかけることはないと思っていた。
テントの奥にある机から初老の男が立ち上がると、ベッドに横たわる小暮の横を通りすぎてゆく。彼は本を顔から退かすと上体を起こし、視線で男を追った。
「しっかしまあ赤道は暑いね佐原くん。ちゃんと休まないといかんよ」
「水分は取ってますから………それよりコンポジット・ラムダの偏心率を見てください。また同じ結果ですよ」
「うぬぬぬ」
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