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それは少年が別れを口にするためだった。
毎日眠っている彼女の前で、泣いている自分を見せてきた少年は、最後くらい彼女が好きだと言ってくれた自分の笑顔で別れを告げたかった。
少年は1度大きく息を吸って言葉を紡ぐ。
1回目は言えずに終わった。
これを言ってしまったら、もう本当に彼女に会えなくなると思ってしまったから。
だが、少年はもう1度息を吸う。
ずっと忘れなかった、ずっと後悔していた、ずっと……伝えたかった言葉があったからだ。
いまだに唇は震え、呼吸は乱れる。
声を出しても情けない音を出して終わるかもしれない。
でも少年は言いたかった。
今も尚、心の底で生き続けているこの想いを。
そして、溢れるほどの想いを言葉に無理やり詰め込んで、少年は不格好な笑顔で想いを解き放った。
「レイラ……今まで本当にありがとう。俺も好きだったよ」
その声は、決して大きなものではなかったが、遠くまで届きそうな不思議な響きを持っていた。
……そして風の合奏が鳴りやみ、今日一番の風が吹いた気がした。
その風は少年の涙をなでるように吹き飛ばすと、遠くの空まで飛んでいった。
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