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友人はそれらの視線に気が付いてないのか、 「うわぁ、真っ暗だな」 呑気そうな声を上げながら、開かれた扉の内側に一歩近付いた。 小さな羽蟲の塊のような闇が、シャボンの泡のような薄い膜に覆われているかのように、危ういバランスでそこに留まっている。それは、ほんの少しの刺激でそこから溢れ出すだろう。 その膜に、友人は頭を突っ込んだ。途端に闇が響(どよ)めく。 「何も見えねぇわ」 そう言って振り返った友人の頭には、闇が纏わり付いていた。友人が作った綻びから、黒い羽蟲が溢れ出しているのだ。それらは友人に目的を定め、その身体に付着し始めていた。 それは数を増し、友人の全身を覆うと、家に引き摺り込もうとするかのように収縮を始めた。それを見て、俺は自分の心をどうにか奮い立たせると、慌てて友人を捕まえようとする。 しかし友人の身体は、俺の手を避けるかのように、家の内側に向かって蹌踉(よろ)めき倒れていった。その表情は、何が起こっているか分からず、キョトンとしていた。 小さな黒い羽蟲は、まるで喜んでいるかのように打ち震えている。 肥大して、まるで今にも破裂しそうな恐怖心の陰で震える小さな俺は、その羽蟲が形作る人間を見ていた。 沢山の人間に、そこから生えている無数の腕、そして、無限の眼を……。
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