14人が本棚に入れています
本棚に追加
友人はそれらの視線に気が付いてないのか、
「うわぁ、真っ暗だな」
呑気そうな声を上げながら、開かれた扉の内側に一歩近付いた。
小さな羽蟲の塊のような闇が、シャボンの泡のような薄い膜に覆われているかのように、危ういバランスでそこに留まっている。それは、ほんの少しの刺激でそこから溢れ出すだろう。
その膜に、友人は頭を突っ込んだ。途端に闇が響(どよ)めく。
「何も見えねぇわ」
そう言って振り返った友人の頭には、闇が纏わり付いていた。友人が作った綻びから、黒い羽蟲が溢れ出しているのだ。それらは友人に目的を定め、その身体に付着し始めていた。
それは数を増し、友人の全身を覆うと、家に引き摺り込もうとするかのように収縮を始めた。それを見て、俺は自分の心をどうにか奮い立たせると、慌てて友人を捕まえようとする。
しかし友人の身体は、俺の手を避けるかのように、家の内側に向かって蹌踉(よろ)めき倒れていった。その表情は、何が起こっているか分からず、キョトンとしていた。
小さな黒い羽蟲は、まるで喜んでいるかのように打ち震えている。
肥大して、まるで今にも破裂しそうな恐怖心の陰で震える小さな俺は、その羽蟲が形作る人間を見ていた。
沢山の人間に、そこから生えている無数の腕、そして、無限の眼を……。
最初のコメントを投稿しよう!