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どうせなら、泣けばいいのにな。
「お願い。忘れて。聞かなかった事にして。よかったら今日ここで俺と会った事も忘れて。…会わなかった事にして」
「っ…!//」
口角を上げたゆうとくん。
笑ったわけじゃない。
これは笑顔じゃない。笑顔とは呼ばない。ゆうとくんは笑ったんじゃない。口角を上げただけ。えがおじゃない…。えがおじゃない。
「じゃ、また明日」
ゆうとくんはそれだけ言うと立ち上がって公園を出て行ってしまった。
俺はまた、ゆうとくんの背中を見つめるだけだった。
「………」
俺とゆうとくんがここで会った事を、誰にも見られていなければいい。そしたら俺とゆうとくんだけの秘密になる。二人だけの。そしてゆうとくんの願いも叶うという事だ。俺もゆうとくんも不満は無い。
お願いだ。誰も見ていないで。誰も俺とゆうとくんに気付かないで。
ゆうとくんがちねんに暴力振られている事を知ってしまった。ゆうとくんとちねんは知られてしまった。
きっとこれから、俺は何らかの形でちねんと接触するだろう。
それは交遊的なものでは無く。かなり攻撃的な接触。しかもちねんからの。…の筈。いや絶対にそうだ。
『お願い。』
「っ//」
ゆうとくんの上目遣い。滲んだ声。思い出すと口から心臓が出て来そう。
少しの残像と一緒に脳裏に浮かぶのは、ちねんに殴られるゆうとくん。
ゆうとくんは一体どんな気持ちでちねんに殴られているのだろう。痛いに決まっている。悲しいに決まってる。でも、ゆうとくんは泣かない。きっと泣いたりしない。でも笑ったりもしない。きっと。きっと…
ちねんをひたすら見ているだけだと思う。ちねんを見て、ちねんの姿を目だけに焼き付けているんだと思う。
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