きみをおもいだす

プロローグ

俺が転校してきて、１ヶ月が経つくらい。

相変わらず外されないゆうとくんの右頬の湿布を疑問に思いつつ、本人にもクラスメイトにも聞けないで居た。

ゆうとくんは初日の時のように普通に接してくれる。クラスにも学校にも慣れ、充実し始めた時。

仲良くなったクラスメイトから聞いた話。勿論噂だ。真相は誰も…ゆうとくんとちねん以外は知らないだろう。

ゆうとくんの右頬の傷は、ちねんが作ったものだと聞いた。

最初は笑ってしまった。まさか。って。
だっておかしかったから。１ヶ月もすると嫌でもゆうとくんとちねんが一緒に居るところを目撃してしまう。目撃なんて言葉を使ったら二人が何か悪い事をしているように連想されてしまうけど。
俺が見る二人は、確かに周りからベストカップルだと言われる理由が解るくらいだった。

ゆうとくんの笑顔は相変わらず見た事が無いけれど、ゆうとくんの隣に居るちねんはいつも笑顔で。でもゆうとくんの雰囲気も教室に居る時とは何処か違って優しく感じた。
ゆうとくんとちねんが、キスしているところも見た事がある。決して俺が覗いた訳じゃない。たまたまだ。昼休みに購買にパンを買いに行ったら中庭に居る二人を見つけて…。その後クラスの奴に聞いた話だと、ちねんがいつも強請るらしい。それに応えるゆうとくんはやっぱり優しい。そしてベストカップルだ。

そんな二人。いや、ゆうとくんを好きなちねんが、ゆうとくんに傷をつける理由が俺には解らなかった。
もし俺にこいびとが出来たら。まるでガラス細工を扱う様に大切にするだろう。美しく繊細で弱いガラス細工は叩いたらすぐに壊れてしまう。ちねんと俺の価値観はきっと違う。解っていても、どうも理解出来ない。もしかしたらゆうとくんを、こいびとを傷つける事がちねんのあいじょうなのかもしれない。

結局ホントの事は解らない。

みんな、それも噂だと笑う。
ちねんと１年生の時に同じクラスだった奴が、ちねんは明るくて面白い冗談が通じる奴だったと言った。でも、成績は常にトップクラスで運動もかなりのセンスを見せていたらしい。そんなちねんがゆうとくんを傷つける訳が無い、と。
じゃあ、噂は何処から流れて来たのだろう。俺にはそれが疑問だった。

じゃあ、ゆうとくんを傷つけたのは誰？

いまだにゆうとくんの右頬を思い出すと、興奮する自分が居た。