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ゆうとくんは一度も振り向く事無く公園に入った。
なんでゆうとくんが振り向かなかったのか、俺には不思議だった。もしかしたら俺は、ゆうとくんに声も掛けずに勝手に帰っていたかもしれないのに。ゆうとくんが公園に入ってから振り向いた時、俺は居なかったかもしれないのに。
信じられている自分が嫌だった。
「…さっきの、嘘」
公園に入り大きめの三人くらい座れそうな黄色のベンチの端にゆうとくんは座ると同時に呟いた。
俺も反対側の端に静かに座った。
さっきのって何の事だろう。
「嘘ってのも嘘。正しく言えば、半分だけ嘘」
混乱する。嘘って言ったのも嘘?半分嘘?どういう事?俺とゆうとくん、嘘を言える程何か話した?
ゆうとくんを見ると、真っ直ぐ前を見ていた。こちらからゆうとくんの右頬の湿布は見えない。
「見舞いには行った。でも、診察にも行ってた」
嗚呼。その事か。確かにゆうとくんは見舞いとしか言って居なかった。俺の質問も否定…はしていないと思うけど肯定もしていなかったと思う。
「右耳。鼓膜が破れてた」
ズキンと胸が跳ねた。
一瞬、何を言われているのか解らなかった。それくらいに聞き慣れない言葉をゆうとくんが発したから。
鼓膜が破れるってどういう事?じゃあゆうとくんの右耳は聞こえないって事?なんで?どうして?
また、いつもみたいに聞きたい事が沢山あるのに唇が重い。なんで…。
「そんな大袈裟な事じゃないんだ。早ければ一週間くらいで治るらしいし」
「そ…なんだ…」
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