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まるで誰かに心臓を握られているようだった。勿論、物理的にはありえない。でもありえてしまいそうだ。
俺の心臓を掴んでいるのは…
「誰が言い出したんだろうな」
絶対にちねん、だと思った。
制服の上から胸に爪を立てる。爪を立てた痛みよりも遥かに脈打つ心臓が痛い。なんでこんなに…
「俺も侑李も絶対に言わないのに」
頭の中が白くなって行く。
でもそれは決していい意味では無い。思考も失って行く。俺の中にある秩序さえ崩れる気がする。大きな音を立てて。
今のゆうとくんの言い方じゃ、ホントにちねんがゆうとくんを殴ったみたいだ。もし、違ったとしても…いや。ゆうとくんは確実にちねんに殴られた。殴られてる。
殴られてるだけならまだしも、きっと暴力全般…。見えない所にも沢山の傷が存在するのだろう。
「…忘れて」
「え?」
ゆうとくんがこっちを見る。右頬の湿布も見える。
呼吸が少しだけ楽になった。
「忘れて。今の。こんな事、言うつもり無かったんだ」
「………」
「俺はずっと侑李が好きだったし今でも好き。今の侑李もちゃんと好き。侑李だって同じ様に俺の事好きだって言ってくれる」
ゆうとくんは無表情なのに。
何故か泣きそうだと思った。口調からかもしれない。ゆうとくんの口調は今にも泣きそうに聞こえた。それに加えゆうとくんの言葉は意味深だった。
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