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カタン。
小さく音を立てて、俺の指を行き来していたペンが床に落ちた。床に落ちただけでなく、机から落ちた衝撃で横に飛んだ。そこまで望んでなかった。
「…え?」
ペンがおちた事によって我にかえる。
何秒か間を挟んでから、俺に向けられたと思う声に気付いた。
間違い無く声は、横から聞こえた。ペンがおちたのも横。
ペンを目だけで探す。俺と同じ上履きの横にあった。見つけた。同じ上履きだったけど、俺のより遥かに履き慣らされた上履きだった。勿論俺のではない。
グギギと今にも鈍い音が聞こえてきそうな首をペンから上へと持ち上げる。勿論俺の顔は、黒板の方を向いている体と比べて横を向いている。このまま顔を上げたら隣のイケメンをしっかりと見てしまう事は頭では解っていた。でも、俺は顔を上げた。
「ペン…落ちたけど?」
薄く開いた唇が閉じない。かなり間抜けな顔をしてると思う。でも、閉じない。
俺に向けられた言葉、と視線。メガネのレンズ越しに黒い瞳が俺を見ている。見ていた。スラリと長い人指し指は、床に落ちた俺のペンを指していた。
「はい」
「あ、りがと」
ペンを拾い、俺の机の上に雑に乗せた。お礼を言うのが精一杯だった。
なんで急にこっちを向いたのだろう。そんなにペンを回す音が煩かったのか?それなら悪い事した。謝らないと。でも、唇が動かない。声が出ない。
「何固まってるの?緊張してるの?まぁ当たり前か。高校生になって転校なんて滅多に無いだろうしね」
彼が思っていたよりも声を発する事"にも"驚いた。でも、それよりも驚いた。
彼の視線は机に置かれた俺のペンから動かなかったけど、俺は彼の顔から目が離せなかった。
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