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それは、彼の顔が綺麗だったからとか好みだったからとか。そんな不純な理由ではない。
「あ、う……」
声は出たが言葉は出ない。
彼はペンを見たまま。
長い睫毛が解る。左右対称な整った顔。
そんな整った顔には不釣り合いな湿布が、彼の右頬には貼られていた。
こちらからは見えなかった。湿布の大きさから小さな痣(怪我)では無いと推測出来る。目のすぐ下から頬、寧ろ顎にまで湿布はいっている。
転んだ?いやありきたり過ぎるしまさか転んだだけでそんな怪我はしない筈だ。まさか殴られた?ケンカ?いや、ケンカなら他にも傷があってもいいだろう。それにこんなに酷いなら停学にくらいなるだろう。でも彼は今ここに普通に居る。じゃあ他に理由が?
「ねぇ、名前。なんだっけ?山田…」
意識すれば、声までいい。
狡いだろう。顔だけではなく声まで。おまけに背丈も狡い。狡過ぎる。
「りょ…す、け…」
「りょうすけ、か」
彼が俺の名前を口にする。それだけの事なのに、特別に思えた。
「涼介はなんで転校して来たの?」
やっとこっちを見た。合った視線が外せない。
俺が転校して来た理由なんかよりも、俺は彼の名前が知りたかった。
「親の…転勤…」
「へー。大変だね」
前では先生が話している。
予想していた性格と少し違う。
無口かと思えば急に話し掛けてきてくれるし。口調は優しいし。ペンも拾ってくれた。でも、笑顔はまだ見てない。この会話中に笑顔になるタイミングがあったかというとそれは無かったから何とも言えないけど…。
それでも笑ってくれる人は笑ってくれる筈だ。もうこんなに話したんだから。
それにしても彼の顔の傷(かどうかも解らないけど)が気になる。初対面だから図々しく聞けないのがもどかしい。
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