プロローグ

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      授業終了のチャイムが鳴る。 先生は黒板に中途半端に書き残しをして教室を出て行った。"to time"と言う英語を知っている。生物担当だけどまさしくその通りだ。 「あっ…」 彼は、机に出していた物を全て机の中にしまうとすぐに椅子から立ち上がり教室を出て行った。 追い掛けてみようと俺も立ち上がると、再びクラスメイトが5、6人俺を囲む。嬉しいのに今は素直に喜べない。 「涼介、裕翔君とは話せた?」 俺を囲んでいた中の一人が言う。 裕翔君ってまさか… 「涼介の隣の席の奴だよ」 また別な奴が言って、確信する。 "ゆうと"君っていうんだ…。 名前、知れた。でも出来るなら本人から聞きたかった。 「裕翔君の隣とか羨ましいよ」 「ホント、ホント。裕翔君優しいし頭いいし」 「なんかマイナスイオン出してそうだよな」 中心に居る俺を差し置いて盛り上がるクラスメイト。 もしかして、彼の傷の理由知ってるかも…? 「それに恋人おもいだし。今だって隣のクラス行ったんだろ?休み時間ごとに行くなんて中々出来ないよな」 ……"こいびと"? 単語の意味を思い出せない。そういえば俺、日本人のくせに国語より英語が得意だったんだ。だから、"こいびと"の意味もすぐに出て来ない。聞き覚えのある単語なのに。もしかしたら"to time"よりも日本人に通じる単語かもしれないのに。 「裕翔君、あんま笑わないけど普通にいい奴だしかなりモテるんだよ」 「でも裕翔君の恋人もすっげぇモテんの。まさにベストカップルってやつ」 クラスメイトの言葉ことばが耳から零れ落ちる。脳にまで正しく送られた単語は"べすとかっぷる"だけだった。もしかしたらクラスメイトたちは俺が日本人なのに日本語が苦手な事を悟ったのかもしれない。 いやそれは自惚れ過ぎか。現代言葉とでもいうのだろう。片仮名の言葉は。  
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