遭遇と準備

3/9
前へ
/43ページ
次へ
 魔界の(自称)植物学者の話を、唯一の人間の友人である霧瑪はどんな表情をしたらいいか考えた……わけでもない結果、ひきつった笑みを浮かべていた。 「それ、アリスの白兎よ……なんで迷い込んじゃったの?」  アリスの白兎、その単語をはじめて聞いたのか、魔界の植物学者は目を丸くした。 「いなばの白兎ではなくて?」 「それは日本。アリスのお話は西洋の方よ……」  彼女は何故、いなばの白兎は知っていてアリスを知らないのか……。  椅子から立ち上がった霧瑪は、ベッドに置いてある本に手を伸ばし、それを植物学者に渡した。 「説明より、読むのが早いわ」 「絵本って、子供が読むものでしょう? 何故、あなたが?」  植物学者の問いで、霧瑪の顔は真っ赤になり、 「わ、私も子供だったときがあるの! いいから読む! 絵本の兎を食べないためにも!」  ……私が食用にしなくても、他の魔界にいる誰かが食用にすると思うが、言わないでおこう。植物学者は黙って絵本を開いた。 「人間の世界に来たってことは、アリス以外に何かあったの?」 「読んでる途中で話しかけないでよ……人間の解体方法を聞きに来たの」 「あなた達が十分知ってるものじゃないの?」 「その白兎が、人間の姿だったのよ、なら方法も人間の解体方法でしょう? ……もう兎は食べないつもりよ、このド派手な猫、美味しそうね。白兎がいるなら探してみようかしら」  魔界の者の思考を理解することは、一生とプラスアルファがあっても無理だろうと、霧瑪は改めて思った。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加