遭遇と準備

7/9
前へ
/43ページ
次へ
 なにかを察していたかのように、玄関の扉には仕立て屋の男がいた。ほどよく筋肉がつき、長身で、無駄に美形なのは、彼が色欲の悪魔だからかとおもわれる。  植物学者はため息をついてから少女を降ろす。問題は、彼の服装である。 「レェディ、重苦しいため息は無しとしようじゃないか」  それに気づいた彼は、大袈裟に肩をすくめ、近づいてきた。レディの言い方も、気取っている。 「ひっ」  日傘の少女は、植物学者の後ろに隠れた。 「……ごきげんよう。仕事を持ってきたわ」  無表情の植物学者に、仕立て屋はお互いの鼻がふれあいそうな程度に顔を近付けた。 「立ち話も悪い、早くあがらないかい?」  体からの香水独特の甘ったるい香りを体験する植物学者は、 「……」  返事の代わりに頭突き。 「oh!」 「客へのセクハラで営業停止にできるかしら。法律機関ないけど」  痛がる仕立て屋を見る植物学者の表情はにこやか。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加