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また何て事を言ってるのよ!
……と波奈は叫んだが口に出せない。
口を紡がれている。
ようやく、それが拓人の力という事に気付いた。
「クラスで騒がれるのが嫌って彼女から口止めされてたから距離を置いていたけど……もう見つかったら仕方ない。
隠すのは止めにしよう、波奈。」
拓人が微笑むと、口の圧力が解けて波奈はあっと声を発する事ができた。
彼をキッと睨むが微笑みの中からまた違った圧力が掛かってきて、肩が震える。
「ほ、本当なの、波奈。
進藤くんと……付き合ってるって……。」
姫乃が恐る恐る尋ねる。
一言も話していない事が分かったみたいだ。
付き合っている、イコールそれは"恋人"。
しかし拓人の思惑は違うだろう。
"恋人"ではなく……"主従"。
主従関係を紛らわすために"恋人"を演じるというのだ。
『俺に合わせろ』
そんな圧力がさらに重くのし掛かる。
波奈には抵抗できない。
主従関係で拓人は言った。
波奈が主人、マスターだと。
しかし本当は違う。
波奈は……拓人に従う。
彼の力によって……従わざるをえない。
慌てていた心は徐々に冷静さを取り戻していた。彼の意図がだんだん読めてきたのだ。
黙っていた波奈は深く息を吸って姫乃に視線を向けた。
利用されているのでは?という不安気な彼女を安心させるように波奈は口を開く。
ニッコリと笑ったつもりだったが、姫乃は分かってくれただろうか。
「……うん。
……私と拓人は、前々から付き合ってた。
隠していてごめんね、姫ちゃん。」
大きな芝居になるが演じきってやる。
"恋人"らしく、波奈は肩に置かれていた拓人の手に、すっと自分の手を添えた。
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