『みずのこえ』

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ーーーー 俯いたままの僕はそこにいた。 いや。そこにしか、いられる場所なんかなかったんだ。 ジリジリと照り返す太陽の光は肌に突き刺さるように暑くて、風が吹く度に何処からか風鈴の音色が聞こえていた。 いつからここにいて、どうしてこの場所にいるのか思い出せない。 そんなとある『夏』に僕はいたんだ。 ちょこんと座っているのは古びたベンチ。 みずいろの塗料がぶ厚く塗られ、座るモノ全てにまとわりついてきそうで子供の僕には少し恐怖心を掻き立てるものがあった。 ベンチを囲うようにして造られた小ぶりの木造屋根は今にも倒れてしまいそうな程朽ち果てている。 目線を少し上げれば、どこにでもあるようなバス停の看板が申し訳ないように立っていて、裏側の時刻表は雨ざらしのせいだろうか劣化が進み、字なんかとても認識できるようなものじゃなかった。
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