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バスにも誰もいなかった。
後部座席も、よく年配の方が座る最前席も中はガランとして、揺れる吊革が規則正しく踊っているだけだった。
「運転手さん...いるの?」
恐る恐る、運転席を覗いた。
やっぱり誰もいなくて怖くなったんだろう。誰でもいいから人と言葉を交わしたかった。だから、どんな人でもということで運転手だと思った。
「どうしたんだいボウヤ?」
そこには真っ白いヒゲを蓄えた肩幅の広いオジサンがハンドルを握り、僕を一瞥してニッコリと微笑んでくれた。もちろん涙が出るくらい嬉しかった。
「立ってると危ない。さぁ、私の後ろへお座り」
運転手さんの言葉に促されるように、うんと頷きすぐ後ろの席に腰を降ろした。
後部の長い座席も魅力的だったが、下手に運転手さんから離れるとまたあの場所に戻されてしまいそうだったから少しでも近い席を取った。
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