The world without a lie

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「……先……生? ぼ、く……学校……いけ……る?」 目の前でベットに横たわる男児 齢10もいかない彼は無数の管に繋がれている この管一本でも切れば、 彼は一時間と持たずに死に至る 一つの命は、重いようで軽い 毎日まいにち、人はどこかで死んでいる 俺がいるこの大病院ともなれば 毎日平気で2、3人死んでいく 救急で運ばれてくる患者、病気で死ぬ患者 あと、腕輪で死ぬ患者 死はすぐ目の前にある。 隣にある。後ろにある。 はたまた、見えないところにある。 逃げるなんて考える方がお門違いだ 「…………先生?」 男児の声で思考の海から引き揚げられる 目の前にも、死に付きまとわれた男児が 横たわっている 息も絶え絶えに、 望みが薄いことを知りながら 希望を求めて手を伸ばす この男児が求めているのは真実ではない 自分の求める希望が欲しいんだ だが 「無理だな。 持って一週間、悪ければ三日だ」 「……そっか。……ありがとう。」 そんな淡い期待にいちいち答えていては 命がいくらあっても足りそうにない。 何せ俺は医者だから。 こんな悲しい悲劇は、 毎日のように見ている だから、男児の頬を流れる涙の意味なんて 知る必要はない あれは、ただの現象だ 副交感神経と交換神経が感情による刺激を受けて分泌される、水98%、1,5%のナトリウム、その他たんぱく質の液体だ 何の価値もない
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