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『お疲れ様です!』
事務所へと帰って来た兄貴分である橋本に向かい、頭を下げていく。
『今日の上がりはどうだ?』
『云われた通り、済ませました。』
革のソファーに、脚を広げて座っていた橋本は立ち上がり、私の前に立ち塞がった。
幾つもの修羅場を潜り抜けた男の眼(まなこ)は鋭く、当時まだ子供(ガキ)だった私は、その鋭い眼を見続ける事等、出来ないでいた。
緊張で固まっていた私の肩を、ポンと叩き、煙草をくわえる。
ポケットから、素早くライターを取り出し、煙草の筒先に火を点ける。
背中を向け、煙を一つ吐き『女とは上手くやってんのか?』と、意外な事を問われ、私は戸惑うのだった。
『ーーで、どうなんだ?』
催促するかのように問いただし、私の言葉を待つ。
『まぁ、ぼちぼちです…』
少し、苛立ちながら答える私に向かい、珍しく笑みを見せている。
短くなった煙草を揉み消し『そうか…』とだけ呟き、部屋を後にしていくのだった。
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