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パソコンからの光は、無い。
天井の薄暗闇の中、そこには、何かが釣り下がっているように見えた。何だろう。ネクタイだろうか。
呆然と、俺は幻覚のようなそれを眺めた。
ネクタイをしていた。
そこで、ドラゴンの姿をした俺は、呆然と立ちすくんでいる。どうしてそこにいるのかも、いつからそこにいたのかも分からない。ただ、そこにいた事だけは事実だ。肌の色は、コバルトグリーン。
暗闇の中、俺はお気に入りの、スカイブルーをしたネクタイを着けている。あの時と同じ色の、スカイブルー色だ。
そのネクタイは、俺に言う。
『もっときつく締めてごらん、』
もっと? と俺は少しだけしり上がりに尋ねるが、ネクタイは続けて言う。
『あぁ、もっとだよ、もっときつく、』
息を飲むが、俺はネクタイに手をかける。もっときつく、俺は締めた。
息苦しい。
だが、ネクタイは言った。
『もっとだ、もっともっと、』
言葉が、闇の中で反芻する。頭の奥にまで染み渡り、俺は半ば条件反射的に、ネクタイをもっと、きつく締める。格好がいい悪いと言う問題ではなく、苦しい。
苦しかった。
本当に、息が詰まって死んでしまいそうだ。
『そう、もっと、もっと、もっと、』
これ以上無理だよ。
俺は、そうネクタイに告げる。
『そうか、それじゃぁこうしてやる、』
ネクタイはそう言った。
お気に入りの、スカイブルー色をしたネクタイが、突然上に引っ張り上げられた。俺は呆然と、足場のないその感覚に采配される。
それだけだ。
空中に、ぶらん、と、俺が垂れさがる。
『これでいいんだろ?』
尋ねられた。
俺は、少し笑いそうになった。
そうだ、これでいいんだ。これが、俺の望んだことだ。
そう、本気で思う。
天井にぶら下がった俺は、その感覚が確かにあることを、しっかりと感じ取る。どんどん、自分が消えていくような、そんな感覚を。
『 』
ネクタイは言った。
聞いて、俺は笑った。
声は出ない。けれど、心の中で、こう俺は返す。
そうだね……、俺なんか……、こんな俺なんか…………。
俺は、笑っているのだろうか。
鏡が無いから、俺がどんな顔をしているのか、想像することしかできない。
起きた時、俺が一番初めに確かめたのは、喉の感覚だった。
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