Ffug

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 ネクタイも何もしていない筈なのに、俺の喉には、妙な違和感が残っている。気持ちの悪い、そんな感覚が、まだ頭の片隅に、確かにあった。 「……、」  表情をこわばらせながら、俺は顔を上げる。  天井には、蛍光灯以外何もない。椅子が倒れているわけでもなければ、靴が添えられているわけでもなかった。  さっきまでのは夢だ、そう思うと、少しだけ気が楽になる。けれど、本当に夢だったのかどうか、俺にはよく分からない。 「……はぁ、」  ため息をついて、それから、どこか面倒くさそうな表情で、ベッドから降りる。今日は土曜日だ。つまり、学校が無い。  本当はそんな日、俺はずっと絵を描いていたいと思う。ずっと絵を描いていて、そして、カヌートでみんなと過ごす、そんな一日がいい。  けれど、もう絵を描くことは、なるべく避けた方がいいだろう。心のどこかで、俺はそう思っていた。  描いたら、また父に怒られる。そのくらいは承知している。  どこか、別の場所に保存したとしても、きっと父は見抜く筈だ。以前そうしてみたけれど、あっさりと父に見抜かれたのを覚えている。  モニターの中で、パソコンが起動し始めているのが分かった。  いつもの見慣れたOSのロゴに、いつもの起動時間。少し、起動するのが遅すぎるような気も、俺にはする。  いつものことだ。  思いながら、俺は充電中の携帯電話を手に取る。見てみるが、メールも何も着ている様子はない。スパムすら来ていないようだ。 「なんだかな……、」  俺は小さくそう言って、携帯電話を机の上に置く。俺の右にあるペンタブは、いつものようにそこで、じっと何かを待っていた。  目を、細める。  起動し終えると、俺はすぐにパスワードを入力して、自分のユーザーにログインした。  デスクトップは、俺が描いた『ピクソウルズ』の仲間たちにしている。俺が描くのは概してドラゴンで、データフォルダの中に入っているのは殆どドラゴンだ。そのフォルダ名が『ピクソウルズ』になっている。英語で考えると、何のひねりもない名前だ。俺はいつも思うが、そこまで、俺にネーミングセンスがあるわけでもない。  すぐに、俺はペンタブのファンクションキーを押そうとした。  右手が、一瞬だけ痙攣して、そして止まる。 「……、」  沈黙して、俺は目を細めた。  それから、右手を離していく。マウスの方に右手を寄せて、『カヌート』をダブルクリックした。
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