Ffug

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 それは、絵に描いたよりも野暮ったい、そんな夕暮れの下だった。  空一面が赤く染まり、綺麗な茜色を映し出す。その色は辺り一面を染め上げ、アスファルトも、そばにある木々も茜色に染まっていた。  学校からの帰り道、なんとなく、通学バッグが重い。別に、教科書が入っているわけでもなければ、ノートが敷き詰められてもいない。あるのは、ゲーム機やスケッチブック、サイコロ、全て学校に関係のない物だ。けれど、それを全て合わせたって、この重さには到底たどり着かないだろう。 いつもより、通学バッグが重かった。 どこにでもあるような住宅地の風景を辿りながら、小さく、俺は言葉する。 「俺、絵描くのやめようかな、」  坂道を、とぼとぼと歩く感覚も、なんとなく重たかった。  お気に入りの青いネクタイを着けた俺は、視線を、自分の足元へ向ける。俺の履いている革靴も、空の茜と同じ色をしている。茜は、あまり好きな色ではない。 「……、」  息を詰めて、隣で歩いている榑松詩(ふまつし)が黙る。  俺と同じベストを着ている、眼鏡をかけている同じ学校の生徒だ。帰り道が丁度同じ方向だから、坂道をいつも一緒に帰る。  しかし、榑松詩にはネクタイが結べない。 「……ネク、」  心配そうに、榑松詩が呟いた。  よく、俺は『ネク』と呼ばれる。それは、俺だけが学校でネクタイをしているからだ。先生たちは、それを一つのファッションとして納得してくれている。だから、俺を呼ぶ殆どの人が、俺を『ネク』と言うのだ。  けれど、俺は榑松詩の方に顔を向ける。 「……、でも、仕方がないよ、」  強引に微笑むよう、俺は呟いた。 「だって、絵を描いたって、今のご時世、何もいいことなんてないんだし。それに、役にだって立たないさ、」  そう言ってみる。  胸の、どこかしらがかゆくなった。 「また、……」  榑松詩が、俺に言う。 「親父さんか、」  目の中に、光が灯っているようにも見えた。 「……、うん、」  それから咄嗟に目を反らす。ずっと見ていられない。 「……、」  息をひそめる様に、榑松詩が息を吐きつける。歩調は、さっきよりも重たく、なんとなく野暮ったい物になった。 「俺、……どうすればいいんだろう……、」  また、そう言った。  これで、何回目だろう。その言葉を呟くのは。どうすればいいのか、どうしたらいいのか。もしくは、どうも出来ないのか。
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