Ffug

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 どうもできないのかもしれない。  絵を描くことなんて、所詮ただの、絵を描くことに過ぎない。絵を描くことは、絵を描く以上の事にはならないのだ。  時々、どうすればいいのか、本当に分からない。  今みたいに。 「……、どうすれば……いいんだろう……、」  口の中で、言葉を転がした。  描くことは好きだし、俺は絵を描きたいと思う。  けれど、それは贅沢な考え方なのかもしれない。好きなのならそうれをすればいい、と言う考え方は、金持ちのする考え方だ。 「……、俺、」  呟く。  俺よりも背の高い榑松詩は、口をしっかり結んで、神妙そうな表情をしていた。けれど、そんな榑松詩の表情も、やはり赤く、野暮ったい斜陽で塗りたくられている。  音は、無かった。  あるのは、色だけだ。  そこまで好きではない、赤色が、辺りを采配している。 「…………、やめる、のか?」  控えめに、榑松詩が尋ねてきた。  きっと俺は、今榑松詩の顔を直視できない。絶対に出来ないだろう。 「……、」  答えが、浮かばない。  また、分からなくなってしまった。  絵を描くことを辞めればいいのか、それとも、やめてはいけないのかどうか。 「……、やめる……、しか、」  ぼそっと、 「……無い、……かも…………、」  呟く。  俺の家は、この辺りの家でもかなり大きな方らしい。一階には十畳のリビングと、六畳の洋室が二つ。二階には十二畳の洋室と、十畳の客間がある。俺が生まれた時からそうで、配置も、全く変わっていない。俺が生まれる前にリフォームしたらしいが、家はどこか新しい雰囲気を持っていて、なんとなく好きだった。  けれど、と考えると、少し心がおかしくなってくる。逆接は、体に悪い。  家に帰ると、俺は小さく「ただいま、」と呟いて、家の中へと入って行く。靴を脱ぎ、そして廊下を歩いて行った。  この家全体が洋風なつくりだからなのか、ドアはうち開きで、全体的にフローリングが目立つ作りになっている。廊下からは階段が見え、階段には手すりと、樹の格子のような物がはめ込まれている。それだけだから、廊下から階段が見える構造になっていた。  階段の方から、ダッダッダッダ、と言う足音が聞こえてくる。少しぐぐもったその音は、きっと靴下をはいているから、そんな音になっているのだ。何となくそう思う。
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