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そこから顔を見せたのは、妹のユーナだった。制服姿の所を見ると、まだ帰ってきて間もないのだろう。
「あ、お兄ちゃんお帰り、もうご飯の準備できてるよ」
笑っているように見える。
それは、俺の気を使っているから、笑っているように見えるだけなのかもしれない。そう思う所は大きい。
「うん、」
俺は、笑っていなかった。
「ぁ……、」
ユーナが、口を開きかける。
それを聞いて、何かを言うのかと、階段の方を見て待っていた。しかし、ユーナは視線を反らす。
「……ッ、なんでもない。お兄ちゃん、早く支度して上に上がって来てね、」
そう、笑っているように見えた。
そして、ユーナは階段を上り始める。
ユーナの作り笑いを見るといつも、なんとなく、自分が嫌になる。懸命に笑ってくれているのに、俺は笑っていないのだ。
息を詰めて、ため息を吐くだけ。
それが俺だ。
それしかできないのが、俺だ。
「……はぁ、」
目を細めて、仕方がなさそうに俺は自室へ向かう。自室は、六畳間の洋室だ。勿論、もう一つの六畳間は、ユーナが使っている。
フローリングに靴下を打ち付け、俺は自室のドアを開けた。
その中に、バッグを投げ入れる。
二階の、十二畳あるリビングに行くと、父と母、それから、ユーナが椅子に座って、いた。食事は、もう用意されている。みんなは、白いご飯と魚、それから味噌汁と野菜。俺は、ポテトチップスの袋が。
「ほら、お兄ちゃん、もう腹ぺこよ、」
ユーナが笑っている。
そんな笑っているユーナの隣に、ポテトチップスの袋が用意されていた。そこに、俺が座る。
母は固い笑みを口元に浮かべ、「さ、食べましょうか、」と呟く。父はそれを聞くと、読んでいた新聞記事を、ため息とともに床へ下ろした。
緊張している。
「それじゃぁ、いただきまーす!」
そう言ったのは、ユーナだった。
それを聞くと、みんな「いただきます」と口々に呟き、そして箸を取り始める。俺は何も言わず、ポテトチップスの袋を開けた。
いつもの、ジャガイモのにおいがする。
「今日は、」
父がそう口にした瞬間だった。
家族の全員が、一瞬だけ、凍りつく。勿論俺もだ。
「少し帰ってくるのが遅かったな、」
俺へ、そう父が呟く。
口の中に残っているポテトチップスを飲みこんで、「……はい、」と俺は言った。使っていない左手が、制服のズボンを握る。
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