Pic's Souls -ピクソウルズ-

Ffug

『@DRAGONSPSL おかえりなさーい』
　パソコンの中に、そう大きく表示される。ジェーブ(@zyebu)からの返信だ。さっき俺がTL(タイムライン、流れてくるフォロワーの送信した短文の流れのこと)に、『めしいま(飯食ってきたただいま、の略)』を送信したからだろう。ネットワーク環境は良好で、『カヌート(Canuto)』にも上手く接続できている。
　カヌートは、世界中に広がっている巨大なSNSのことだ。ジェーブは、その中で知り合った、仲のいいユーザー、と言う事になる。
　それを見て、俺はジェーブに返信した。
『@zyebu おかありー(おかえりありがとう、の略)　また親父に怒られた』
　ジェーブが、どこの誰なのかは知らない。会ったことも、顔を見たこともないし、本名さえ知らない。しかし、SNSと言うのはそう言う物だ。使い方を間違えたりしなければ、とてもいい環境になり得る。
　他のSNSとは違い、カヌートは大量の情報が浮遊しているらしい。現に俺の所にも、沢山の情報が流れてきている。テレビなんて見なくても、カヌートがあればニュースだって見ることが出来る。いい時代になった、とよく大人は言うが、俺にはよく分からない。
　技術が進歩していいことがあっても、悪いこともあることに、みんな気が付いていないのだ。
　しばらくすると、また、ジェーブから返信があった。
『@DRAGONSPSL おろろ、またかい』
　ジェーブのアイコンは、青く小さなドラゴンで、二本の角を頭に持っている。俺が昔描いたアイコンを、まだ使ってくれている。
　キーボードに、俺は指を躍らせた。
『@zyebu うん、また言われちゃった』
　ため息をついて、それから、エンターキーを押す。真っ暗な中でパソコンを弄っているところを見られたら、父が何と言うか分からない。けれど、俺がいるときに、父が入って来たことは一度もなかった。
　きっと、これからも入ってこない。
　TLには、『ふろったー(おふろにはいった)』『コーラ旨い！』『あー、ボスが強すぎ』『世界の技術発展には必ずリスクと言う物が伴う。現代の原爆や行き過ぎたバイオテクノロジーは、人間を貶めるだけだ。もっと人の役に立つ物を、頭を使って見つけて行こう』なんかが流れてきている。それを少し辿ってみると、どうやらジェーブは、今学校からの帰り道らしい。帰路から、俺に返信してくれているのだろう。
『@DRAGONSPSL 絵のこと？』