Ffug

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 確かに、絵は好きだ。俺も絵を見ることが好きだし、絵を描くことが好きだ。描いている時は何より楽しい。それに、自分の描いている絵が、まるで生きているかのような感覚も味わえる。  大好きだ。  本当に大好きだ。 「……、」  モニターを見つめている俺は、一体どこを見ているのだろう。何となく、自分でも疑問になった。  机の上に置かれたポテトチップスを見る。  まだ開けて間もないにおいだ。俺はそれに手を伸ばす。 『@DRAGONSPSL ねぇねぇ、また絵を描いてくれない?』  ジェーブが尋ねた。  声はない。  パソコンの中で、青いドラゴンは笑っている。ジェーブは、やはりいつものジェーブだった。 「……、……」  口を歪ませる。  俺は、絵を描くべきなのか、描かないべきなのか。  キーボードを叩く手が、少しばかりこわばった。視界が、少しだけぼんやりしてきているような気もするのは、きっと気のせいではない。 「……絵を描く……、か……、」  呟く。  それから、固唾をのんだ。 『@zyebu いいよ、ちょっと待ってて、』  エンターキーを押して、右手を軽くティッシュペーパーで拭く。そして、自分の右側にあるペンタブのペンを持って、ファンクションキーを一つ、押した。  その瞬間、モニターの中にペインティングソフトが起動する。いつもの寸法で、白いキャンバスがあらわれるのだ。 「……、ジェーブ……、」  小さく、そう言って、俺はペンを走らせる。柔らかいエラストマー芯が、俺のお気に入りだ。滑るように滑らかに、俺は線を描いて行く。  描いて行く。  胴部の曲線、それから角の直線、いつもの順番で、笑っているジェーブを、さーっさーっさーっと。  描いて行く。  パソコンの中で、ジェーブが呟く。 「いつもネクはネクタイしてるよね。それって飽きない?」 「全然。ネクタイ好きだからね、俺」 「でも、僕は学校行く時もネクタイはしないよ? だって面倒くさいじゃない」 「慣れればすぐだよ、色々な結び方もあるけど、簡単に覚えられるさ。物によっては、特殊な結び方をするネクタイもあるけどね、」 「ふぅん、すごいなぁ、ネクタイをいつもつけていられるなんて、」 「そうかな?」 「でも、よっぽどネクタイが好きなんだね、」 「うん、そうだよ」 「それはどうして?」  それは、どうして。  はっと。  息を詰める。
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