第一幕

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二宮こと立花麗子は光流の元恋人である。 浅草神社の祭神、土師真中知命(はじのまつちのみこと)、 檜前浜成命(ひのくまのはまなりのみこと)、 檜前武成命(ひのくまのたけなりのみこと)の三神はそれぞれ一宮、二宮、三宮と呼ばれる。 檜前浜成の子孫である立花麗子とその家族は名字で呼ばれるより、「二宮さん」と呼ばれることが多い。 光流と別れる少し前から立花麗子は、身なりが派手になり、態度もキツくなった。 それは、一宮こと浅川忍と関わるようになってからだ。 別れの理由は光流にはよく分からなかったが、光流と立花麗子は別れた。 しかし、立花麗子は度々、光流の前に現れ、ちょっかいを出す。 毅然とした態度で拒絶していた光流であったのに、お美津狐は許してしまったのだ。 「何だよそれ!どーゆー流れで、そうなるんだよ!ああ?」 光流はお美津狐に怒鳴った。 ゆき乃もお美津狐の突然の告白に驚きを隠せない。 「三社祭の夜、いきなり社殿に現れたんやさ」 「…社殿?」 光流は眉を顰める。 社殿は神が居られる神聖な場所だ。 「いや、場所は廊下やさ。不意打ちされたんやさ…」 立花麗子の不意打ちのキス、光流には容易に想像出来た。 付き合っている頃、立花麗子はふざけて、よくそのような事をしたからだ。 「お前…」 光流は犬のように唸った。 「だ、だけど、接吻以上は我慢したんやさ!」 「ば、馬鹿野郎!」 ペシン! ギャン! 光流はお美津狐の鼻っ面を平手打ちした。 「フフフフ…」 着流し姿の、背筋が凍るほど美貌の男は笑った。 電柱に腰掛けて、雷門の出世富稲荷を見下ろしている。
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