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「私事では御座いますが、先日、双子の息子が誕生致しました」
観客席から拍手が起こる。
「生まれたばかりの息子たちは、この『花いちもんめ』の童謡を歌うと嬉しそうに手足を動かします」
ゆき乃は、花いちもんめを歌う芳澤菊之丞の歌声を思い出した。
舞台で鍛えられた、良く通る美しい歌声だった。
「息子たちの誕生以来、息子たちと同じ舞台に立つことが私の夢となりました。その日を迎える為に今まで以上に精進いたします。何卒いずれも様におかれましてはご指導ご鞭撻を賜りますよう、末永くよろしくお願いを申し上げまする次第にござりまするー」
中村勘太郎の口上に、ゆき乃は安堵した。
赤ん坊の時に人買いに売られた芳澤菊之丞と、吉原遊郭に遊女として売られた七緒は、現世では親の愛を知るだろう。
「…良かった」
思わず、気持ちが声に出た。
「良かったな」
光流は、ゆき乃だけに聞こえる声で答えた。
蘆屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)は菊之丞からゆき乃への贈り物であった。
ゆき乃が葛の葉姫の娘であると知った菊之丞は、この演目をゆき乃に見て欲しかったのだ。
「ありがとうございます」
ゆき乃は心の中で芳澤菊之丞と、生まれ変わった赤ん坊の中村菊之丞に礼を言った。
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