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「私は、貴女の父違いの兄、安倍晴明(あべの せいめい)で…御座いますよ」
ニィ…
ゆき乃の兄である安倍晴明は、口元だけで笑った。
涼やかな切れ長の瞳は、じぃっとゆき乃の姿を捉えている。
(蛇…)
ゾク…
ゆき乃は安倍晴明を見て寒気を覚えた。
瞬きしない瞳、笑みを浮かべる薄い唇、光沢がある白の狩衣は白狐というよりは、白蛇を思わせる。
「あ、あの、なぜ…」
謎が多すぎて何を聞けば良いか分からない。
ゆき乃にとって千五十歳近く年上の兄は、なぜ今、ここに現れたのだろうか。
ス…
安倍晴明は目の前のカーペットの床を扇(おうぎ)で差した。
部屋の主(あるじ)であるゆき乃に対して、下座に座るように命じたのである。
ゆき乃は命じられるまま、ドアを閉めて、あぐらで座る安倍晴明の向かいへ正座した。
「初めまして、妹どの…」
安倍晴明はじぃっとゆき乃を見つめたまま、涼しげに響く声で言った。
「こ、こちらこそ、初めまして。お、お兄様…」
ゆき乃は戸惑いながら、両手を床に付き、ペコリと頭を下げた。
それを見た安倍晴明は満足そうに頷き、語り始めた。
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