2人が本棚に入れています
本棚に追加
日向の言葉にぎょっとして、幸平は勢いよく調理場の大和田を見やった。大和田の眉間にはいつもの倍しわが寄っている。
いくら昼のピークを過ぎたとは言え、店内にいる客は桜だけではない。食べ終わった食器の残っている席も、一つや二つではなかった。
「ああぁぁぁっ!か、かたさなきゃ!!」
言うなり幸平は、片づけの終わっていないテーブルに文字通りすっ飛んでいった。
「…彼はいつもあの調子か?」
「まあ大体ね。お客さんと話すのに夢中になっちゃうのよ。毎日最低一回はじっちゃんにどやされてるわ。」
「そうか。」
呆れの混じったため息をつく日向にいつもの調子で頷き、桜はピッチャーに口を付けた。それを横目に日向も仕事に戻る。
幸平と日向ができた料理を運び、席をかたし、注文を取る傍らで客と談笑する。大和田はどこかむっつりとした表情で鍋を振っているが、客から話を振られれば素っ気なさはあるもののきちんと答える。
「これがここの、彼等の『日常』、か…」
まだ半分ほど水の入っているピッチャーを置いて、桜が小さく呟いた。
最初のコメントを投稿しよう!