その1

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日向の言葉にぎょっとして、幸平は勢いよく調理場の大和田を見やった。大和田の眉間にはいつもの倍しわが寄っている。 いくら昼のピークを過ぎたとは言え、店内にいる客は桜だけではない。食べ終わった食器の残っている席も、一つや二つではなかった。 「ああぁぁぁっ!か、かたさなきゃ!!」 言うなり幸平は、片づけの終わっていないテーブルに文字通りすっ飛んでいった。 「…彼はいつもあの調子か?」 「まあ大体ね。お客さんと話すのに夢中になっちゃうのよ。毎日最低一回はじっちゃんにどやされてるわ。」 「そうか。」 呆れの混じったため息をつく日向にいつもの調子で頷き、桜はピッチャーに口を付けた。それを横目に日向も仕事に戻る。 幸平と日向ができた料理を運び、席をかたし、注文を取る傍らで客と談笑する。大和田はどこかむっつりとした表情で鍋を振っているが、客から話を振られれば素っ気なさはあるもののきちんと答える。 「これがここの、彼等の『日常』、か…」 まだ半分ほど水の入っているピッチャーを置いて、桜が小さく呟いた。
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