その2

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「俺も持つよ。」 「…すまない。」 言いながら左手の荷物を受け持った幸平に、朝義は頷くように軽く頭を下げた。それに笑顔を返して幸平は歩きだし、朝義も並んで歩く。 「今日おなべ?」 「ああ。」 「おなべいいよねー。まだ寒いし。」 「ああ。」 「俺ダイコンと白菜が入ってるのが好きー。」 「そうか。」 「おなべとかおでんの時にビールがあるといいんだよねー!!」 「…………待て。」 無邪気に出てきた言葉に、適当な相づちを打っていた朝義は思わず足を止めた。それに気づいた幸平も、数歩先を進んでから止まって、怪訝そうに振り返る。 「何?」 「今突っ込み所が多数あったが…飲酒査定をクリアしているのか?」 「うん。」 朝義の問いに、幸平は即答で頷いた。 大抵のアンドロイドは外見年齢が実年齢と違う為、飲酒査定という制度によって飲酒可能かどうかを定められている。 外見があからさまに子供でない限りは、登録年数が半年を越えていれば査定を受けられ、検査を通れば専用の身分証明書が発行される。 幸平の外見は低く見積もっても十代後半といったところなので、査定を受けることは可能だろう。 「じっちゃんがね、男なんだから酒ぐらい飲めんとな!って言って、半年経ったらすぐに査定に行ったんだ。受かった時はじっちゃんの方がうれしそうだったなあ…」 「……そうか。」 何やら大和田の言葉に私情的な(例えば息子のような存在と晩酌を共にしたいといった風な)意図が見えた気がしたが、あえてどこにも触れずに曖昧な表情で頷いて、朝義は歩みを再開した。朝義の胸中に気づいていない幸平も後をついていき、 「……」 「…っ…」 二人同時に足を止めた。
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