その1

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朝義は元々眠りが浅く早起きな方ではあったが、改造人間になって以降は休息をほとんど必要としない体になった為と、強化された感覚が僅かな空気の変化も感じ取り、夜明けが近づくと余程疲弊して眠りについた時でもない限りは、自然と目が覚めてしまう。 理由が理由だけに陰鬱な気分がよぎる時もあるが、基本的には短い睡眠で済んだおかげでできた時間を、有意義に使うようにしている。 そうして日課になったのが、早朝のジョギングだった。 田荷木町(たかぎまち)の郊外に位置する東雲邸から数キロ離れた京葉川の土手と、田荷木町の隣に位置し、京葉川の支流を渡った先にある妙徳町(みょうとくちょう)へ繋がる旧街道を、専らのルートとしている。 距離だけで言えば運動部学生のトレーニング並のそのルートを、朝義は順調ならば二、三時間で走りきって、家に戻る。 ちなみに順調でない時は、早朝から『コレクター』の構成員と顔を合わせて戦闘になる。連日ではなく、たまにと言えるくらいの頻度で襲撃を受けたり、互いに意図せずに鉢合わせる時もある。 冬の終わり近くである最近は、家の前に着く頃には日が昇って周囲は明るくなる。今日は何事もなく走り終わった朝義は、朝日を尻目に門を開けて中に入り、玄関の扉を開けようと手を伸ばした。 「…っ…」 だが、中からの気配に手を止める。警戒に身を強張らせかけたが、すぐに思い出してため息と一緒に肩から力を抜いた。 今は同居人がいる。半月も前からだというのに、未だに家の中に誰かがいることに慣れない。走ってきた癖にまだ寝ぼけているのかと自分に呆れて、朝義は玄関の扉を開けた。
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