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定食屋『やまと』は、朝の8時から開店する。
閉店時間は基本は夜の8時だが、実際はその時によって変わる。
店主の大和田行時(おおわだゆきとき)曰く、その日の客や商店街の流れ、食材の在庫状況を見て閉店時間を決めているらしい。その為、同じ曜日でも閉店時間が違うこともザラにある。
そんな不定期な閉店時間の『やまと』を、田荷木町商店街やその周辺住人は、開店直後から昼下がりにかけて利用することが多かった。
そのせいかは分からなかったが、『やまと』再開一日目は開店前から利用客の姿があった。
「いやー、『やまと』が『野良』に襲われたって聞いた時は本当に気が気じゃなかったけど、こうやって何事もなく再開できてほんとよかったよ。」
「やっぱ、田荷木町商店街には『やまと』があってこそだな。」
「ここで昼食べないと調子出ないんだよー。」
「おだてたっていつも通りの飯しか出さんぞ。」
すっかり元通りに修繕された『やまと』の前で口々に言う常連達に、大和田はむっつりと言い放った。
常連達は顔を見合わせて数瞬黙って、それから嬉しそうに笑いだす。
「そうそう!やっぱこの憎まれ口が聞けないと!」
「商店街の修理工が総出で頑張った甲斐があったってもんさ!」
「二ヶ月はかかるかと思ったもんなあ!」
「………まあ、それに関しては感謝しとるがの…」
常連達に聞こえないくらいの小声で、大和田はぼそりと呟いた。ついでに、今日明日ぐらいは割引にしてやろうかと、胸中でだけ付け加える。
「あれ?そういえば幸平君は?」
「ひなちゃんはさっき掃き掃除してたの見たけど…」
「その内来るじゃろう。」
『来る?』
大和田の言葉に、常連達は揃って首を傾げた。
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