その1

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そういえば商店街の住人達には言っていなかったことを思い出して、大和田は言葉の意味を説明する。 「半月ぐらい前からここを出とるんじゃ。」 「ええぇっ!?一人暮らしかい?よく審査に通ったな!」 「いいや。郊外の家で世話になっとる。」 「何でまた…まさかゆきじさんがあんまりにもいびるから嫌になって」 「そんなわけないでしょ!」 「あいだ!」 反論と共に後ろから足下を叩かれて振り向くと、いつの間に来たのか日向が箒を片手に不機嫌そうな面持ちで立っていた。下は厚手のタイツと踝までのショートブーツに膝までのデニムスカートだが、上は掃除をするのに邪魔と判断したのか七分丈のTシャツという薄着に首の後ろで結んだ赤のマフラーという出立ちでいる。 「幸平は…その、あれよ!社会勉強よ!」 「社会勉強?」 「そう!別にあたしやじっちゃんが嫌で出て行ったんじゃないの!」 「まあ、ざっくり言えばホームステイみたいなもんかの。」 「じっちゃん…それ微妙に違うと思う…」 何ともいえない表情で大和田に返してから、日向は息をつく。 「とにかく、お店は今まで通り手伝うし、ちょっと住むところが変わっただけ。」 「ふーん…」 日向の説明に、常連達は納得したのかしていないのか、曖昧な頷きを返した。日向がそれを怪訝に思っていると、常連の一人が続ける。 「しかし、何か意外だな。」 「どうして?」 「ほら、二回もここが『野良』に襲われただろ?それも立て続けに。幸平君なら前から決まってても残るー!って言い出しそうなもんだけど…」 「ぅ…!」 常連の見解に、日向は内心どきりとする。 まさか『野良』と言われている者の正体が幸平を狙っている地下組織の構成員で、幸平は『やまと』に夜襲をかけられないようにする為に出たとは言えない。それ以前に連中の目的を言ったところで、よくできた作り話と片付けられるだけだろう。
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