その1

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「いらっしゃいま…あ、桜!」 「邪魔をする。」 桜が『やまと』を訪れたのは、快気祝いや新装祝いを持ってきたついでに朝食や昼食をとっていく商店街の住人が粗方引き上げた、昼下がりの頃だった。ひっかけるように羽織っていたベージュのコートを脱いで真っ直ぐに定位置のカウンター席の隅に座ると、即座に大和田に顔を向ける。 「Aランチと、水を。」 「いつものピッチャーごとか?」 「うん。」 「ひな!桜の嬢ちゃんにピッチャー!」 「はーい。」 返事をして、日向は完全に手慣れた様子でピッチャーに並々と水を注ぐと、桜の前に置いた。 「はいどうぞ。」 「ありがとう。」 「桜、午前中ずっと朝義といたの?」 「え、どうゆう意味?」 「俺と朝義とどっちも桜の担当だから、毎日家に来てるんだ。最初は一緒に住もうとしてたんだけど、朝義がそれはダメだって言ったから、近所に住んでるんだ。」 「……そう、なんだ…」 幸平の説明に所々分かっていない様子で頷いて、日向は桜を見やった。 「で、実際どうなの?」 「…望月幸平が出た後は、食器を洗ってから定時連絡と定期メンテナンスに一度帰還した。メンテナンスの際にドクターとの会話が長引いた為、こちらへ出向くのが少々遅れてしまった。故に、朝以降東雲朝義とは顔を合わせていない。」 ピッチャーの水を飲み干した後で、桜はすらすらと日向の問いに答えると無言でピッチャーを差し出す。 「……桜に水出す時だけ有料にしようかしら…?」 冗談と本気の中間のような口調で呟き、日向はピッチャーを受け取って補充に向かった。 「ドクターって、桜のお父さん?」 「ドクターは私の創造主だ。遺伝子提供者は別の科学者で、会ったことはない。故に私は氷堂の姓を遺伝子提供者からもらい、名は私を完成させたドクターがつけた。」 「じゃあ、お父さんみたいなもんじゃん。」 「ドクターはドクターだ。私は最初から戦闘使用を目的として造り出された。親子という概念は私の中にはない。」 「…ぅ……」 淡々と事実を述べると、幸平は持っていたトレーを抱えて眉をハの字に下げた。しょんぼりとした様子で肩を落とす姿は、叱られた犬のようにも見えた。 理由が分からない桜は、無表情のまま首を傾げる。
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