第1章 サンタシ編

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「さて、話してくれないか。君が昨晩どうしてあの森であの魔族の男と一緒にいたのかを……」   視線をゆっくりとフェルデンへと戻すと、先程までと打って変わって、彼の目は真剣味を帯びていた。 「魔族……?」   朱音は妙な言葉に違和感を感じ、思わず口に出してしまっていた。 「まさか、あの男が魔族だと知らずにいたのか? だが、君はどうやらある種の魔術を掛けられているらしい。一体、あの森で何があった? 奴に何をされそうになったんだ?」   魔族や魔力という非現実的な言葉の勃発に、朱音は震える声でベッドの白いカバーを強く握り締めた。 「聞きたいのはこっちです……! 一体ここはどこなんですか? 昨日から魔王だとか魔族だとか魔術だとか、そう、それに二つの月とか……。意味が解らない! わたしは眠っている間に無理矢理あの人に連れて来られただけなのに……!」   フェルデンのブラウンの瞳が僅かに揺れるのがわかった。 「君はもしかして、アースからやって来たのか!? ……だとしたらなぜだ、なぜ只の人間である君を連れて来る必要があるんだ!」   フェルデンはまるで自分に問い質すかのように声を荒げた。   ビクリと身体を震わせる朱音の姿を見て、青年はすまない、と声を落とした。 「ここはレイシアという君のいた世界“アース”とはまた別の世界だ。つまり、君はあの男の手によって、異界の地に連れて来られたということになる」   フェルデンの言葉の意味を理解できずに、朱音は呆然とフェルデンの顔を見つめる。 「レイシアには二つの大国と島国を主とする小国が存在する。そしてこの緑豊かな国サンタシは二つの大国のうちのひとつだ」   フェルデンはすっと立ち上がると、塗りの素晴らしい棚の中から、使い古した本を一冊取り出した。 「これはこのレイシアの世界地図だ。ここがサンタシ。そして向かいの大陸に広がる大国が我らの宿敵であり魔族の住まう国、ゴーディアだ」   本の見開きのページに描かれている見たこともない不思議な地図をフェルデンは朱音に見せた。   呆然としながら朱音はフェルデンからひったくるようにその本を手元に引き寄せる。   少し日に焼けて黄ばんだ地図は、確かに朱音が普段目にしていた日本やアメリカなどの国がかかれているものとは似ても似つかない。  
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