第2章 ゴーディア編

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  しかしこれは一種の掛けでもあった。   朱音の消えたこの魔城にフェルデンが一人残るということは、ゴーディア側に誘拐の容疑を掛けられる可能性も大いに考えられる。 「じゃ、急ぎましょう。後程、礼の場所で落ち合いましょう!」   ユリウスは快活に闇の中へと消えていった。   フェルデンも持っていた蝋燭をふっと吹き消すと、見回りの兵がいないことを慎重に確認しながら、暗闇の中地下へと続く階段を降りていった。 「アカネ……? ここにいるのか?」   じめじめした淀んだ空気に、湿気臭い匂い。時折鼠が暗闇の中を掻け回る音がする。   フェルデンの声が妙にわんわんと地下に響いた。   幸い、現在無人の地下牢に見張りの者はいない。皆、パーティー会場の警備に駆り出されているようだ。   こんな暗くて不潔な場所に、あの華奢な少女が閉じ込められていると思うと、フェルデンは居た堪れないない気持ちになり、暗闇の中をじっと目を凝らして少女の姿を探した。   しかし、人の気配は感じられず、反応は何も返ってこない。 「アカネ、おれだ……! いたら返事をしてくれ……」   ぴちゃりぴちゃりというどこかで滴る水滴の音だけが暗闇の中で響いている。   地下牢にはアカネの姿はどこに見つけられなかった。 あとは、ユリウスが行った離棟の方に望みをかけてみるしかない。   落胆する気持ちを抑えながら、フェルデンは胸の内側ポケットに折り畳んである魔城の地図を取り出す。 蝋燭の火は邪魔になると思って消してしまっていたし、この暗い地下牢では、地図はよく見えない。   ふと顔をあげると、高い牢の天井近くの壁に、小さな鉄格子の窓が見えた。 そこから、僅かに月明かりが差し込んでいる。 フェルデンは身を屈めると、空っぽの牢の中に潜り込み、その光の筋を頼りに地図を見つめた。  
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