第2章 ゴーディア編

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(どこだ……!)  サンタシの白亜城の隠し部屋は、石壁の一つが奥へ沈み込むと、壁が開くという構造になっているから、同じようにこの城の隠し部屋もそんな造りになっていると予想していたにも関わらず、いくら石壁を押してみてもびくともしない。 「パーティー会場を抜け出し、こんな離れた薄暗い場所で、何かお探しかな?」   突如背後から声がし、フェルデンは慌てて飛び退いた。   薄暗闇の中、不気味に碧い目がぎらぎらと光る。 長い碧髪は片方に寄せて紐で結わえられていた。 (全く気配を感じなかった……!)   フェルデンは氷のように冷ややかな男の笑みを恐ろしい思いで見据えた。 「フェルデン・フォン・ヴォルティーユ、気付かなかったのか? 地下牢は湿気と水でそこらじゅう濡れていただろう?」   くすりとアザエルは口元を歪めた。   フェルデンもアザエルの能力についてはよく知っていた。 水を魔術により自由に操り、場合によっては空気中の水分でさえ武器にも変えてしまうことができる悪魔の力。 セレネの森でフェルデン自ら、そしてロランや兵士が襲われたあの不気味などす黒い武器は、今考えると死んだ兵の血液だったに違いない。 「そうか……、水で結界を……」   フェルデンはふっと苦い笑みを零した。 どこまでも一枚上手な相手に、両手を挙げることしかできないことが惨めすぎて、本当なら大声で笑い出したい気分だった。 「裏切り者のの犬、ロラン程のものではないがな。地下牢は目が行き届きにくいのでな、人が入り込むとわかるようにしてある」   アザエルはフェルデンの正面に立つと、床面にある黒石の一つをこつんと踏みつけた。   途端、ギギギと音を立て、先程までいくら押しても引いても開かなかった石壁の扉がゆっくりと開き始めた。 「入らないのか?」   アザエルが先に部屋の中へと進み入ると、少し振り返って、空いた扉の前で棒立ちになっている若い青年騎士を招いた。     中は真っ暗で、明かりの一つも見当たらない。美しい魔王の側近は、無言のまま壁に設置されている蝋に火を灯した。   途端、ぼんやりと部屋は明るみになり、部屋の真ん中に二つの黒い棺が横たわっていた。 碧髪の男は、静かに棺に近付いていくと、そっとその蓋に僅かに積もった埃を指で払った。
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