第2章 ゴーディア編

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「フェルデン……?」   朱音は驚きのあまり目を見張るが、気付いたときには俯く青年の前に裸足のまま突っ立っていた。   少年の白い足が視界に入り、フェルデンはゆっくりと顔を上げた。   その透けるようなブラウンの瞳は濡れ、頬から顎にかけて涙が幾筋もの跡を残していた。 生気の抜けてしまったような目はぼんやりと見下ろす美しい黒髪の少年を見つめる。   朱音は音もなくそっと青年の前に屈み込んだ。   フェルデンがこんなにも悲しい顔をするのを見たことが無かった。 そして、そんな悲しい目をしたフェルデンを見てはいられなかった。   すっかり冷え切った手は悴んでいる。 こんな冷たい床に座り込んでいる。 フェルデンもきっと身体中冷え切っているに違いない。 それでも、そんなことに気付きもしない程、青年の心は酷く苦しんでいるようであった。 朱音は無意識にフェルデンの頬に手を伸ばしていた。 流れた涙の跡を、そっと白い手で拭うと、ぽたりと青年の服に雫が一滴染みをつくった。 「……おれはお前が憎い……」   フェルデンの低く呟く声。 「お前の覚醒ごときの為にアカネが犠牲になった。お前なんか戻るべきでなかったのに……」   憎しみに染まった力ない瞳は、朱音の心をズタズタに引き裂いていく。 「あ……」   フェルデンの服に染みをつくったのは、フェルデンの涙ではなく、朱音の頬を伝ったものだったのだ。 「なのに、どうしてお前が泣く、新国王」   今ここで弁解したかったのに、まるで金縛りにあったかのように、愛する青年の残酷な言葉が朱音の心を、身体を強張らせ、言葉を発することさえさせてくれなかった。 「ふ……、おれを嘲笑っているんだろ……?」   くくくっと喉を鳴らしてフェルデンは笑った。 「今ここでお前を殺してやりたい……」 若い騎士は両手を少年王の首に掛けた。
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