第2章 ゴーディア編

69/92
前へ
/542ページ
次へ
「……フェ……」   首を締め付ける手に、その冷え切った冷たい手に絶望しながらも、朱音はその大きく男らしい手に自らの白い手を重ねた。 (貴方に憎まれる位なら、このまま貴方の手で殺して……)   息苦しいさの中で、生理的な涙を浮かべながら、朱音は目を閉じた。 「殿下! 何してるんですか!?」   突然激しい怒号が響き、何者かの手で、朱音の首に掛けられたフェルデンの手が強制的に引き剥がされた。 「ごほっごほっ」 咳き込みながら床にくず折れると、ぼやける視界に小柄な青年の姿が入ってきた。 心配そうに覗き込んでくるモスグリーンの瞳。 「ほんとに、一体どうゆうつもりです!? こんなことして、ただで済むとお思いですか!?」   小柄な青年はいきり立ってフェルデンの胸倉を掴み、自らの拳をその頬に叩き付けた。 鈍い音とともに、フェルデンはどさりと床に転げると、小さな呻き声を洩らしてゆっくりと身体を起こした。 口腔内が少し切れたのか、薄い唇の端かからじわりと紅い血が滲む。 「クロウ陛下、大丈夫ですか?」   小柄なサンタシの騎士は、そんなフェルデンを放ったまま朱音の身体を起こす手伝いをする。 「申し訳ありません、どうかこの方のしたことをお許し下さい。我国サンタシは、ゴーディアとの戦を望んではいません。どうか……」   呆然としたまま、フェルデンは口元の血を手の甲で拭った。 自分が今何をしようとしていたのかを悟り、ひどく動揺しているようだった。 「ごほっ、だ、だいじょ、ごほっ」   咳き込みながら、なんとか朱音は答えようとするが、うまく声が出ない。 ほっとしたように、小柄な騎士は朱音の背を支えるようにして起こすと、そっと近くの壁に持たせ掛けた。 「ユリ……、おれは……」   フェルデンは友の手によって正気を取り戻し、ぐしゃりと頭を両腕で抱え込んだ。
/542ページ

最初のコメントを投稿しよう!

468人が本棚に入れています
本棚に追加