第2章 ゴーディア編

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  魔力を秘めたその石を身につけることで、人間であっても自由に魔力を操ることができるようになった。   しかし、魔光石一つ作るのに、数十人から数百人分もの魔族の血を必要とした。 その為、多くの罪無き魔族の民が犠牲となり、人身売買や裏取引に利用されることも少なくなくなった。   魔王ルシファーは何としても魔族の民を守ろうと、自らの魔力を惜し気もなく使い続けていくことになったのである。   朱音はルイが少しでも気が紛れるようにと持ってきた歴史本をぱたりと閉じた。   昨晩のことが頭を過ぎり、ちっとも内容に集中できないでいた。   習いもしない文字が読めることや、いつの間にかアザエルの魔術なしでもレイシアの人びとと話を交わすことができるようになっていることに、朱音自身奇妙な感覚を持っていた。 これはおそらく、クロウの身体が記憶しているもの。   しかし、今はそんなことを考える余裕など更々無い程に、朱音は苦しんでいた。 未だフェルデンの手の冷たさと強い締め付けの感覚が残った首筋に、自らの指を這わせる。 「誰にやられたのです」   足元のおぼつかない朱音に肩を貸し、フェルデンの部下である小柄な青年が、アザエルの執務室に連れ帰ったとき、人の気配を察して部屋から出てきたアザエルとばったりと顔を合わしてしまったのだ。   碧い目が鋭く見つめていたのは、朱音の首にくっきり紅く浮かび上がった痣。 朱音は今にも泣き出しそうな顔で、顔を逸らすと、唇をきつく結んだままじっと床を見つめた。 「クロウ陛下、首のそれは誰にやられたのですか」   アザエルの瞳が珍しくも怒りの色を帯び、朱音をサンタシの使者の腕から引き剥がすと、その痣を確かめた。   それでも何も言おうとしない少年王の様子に、ユリウスは戸惑いを隠せなかった。 きっと、この少年王はこの男の前で包み隠さずに事の成り行きを話すだろうと思っていたからだ。
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